2024年から新NISAが始まり「貯蓄から投資へ」の動きが加速する中、早くも次の改正に向けた議論が始まっています。最大の焦点の一つが、NISA「つみたて投資枠」の対象年齢を18歳未満(未成年者)にも拡大するという案です。
この記事では、なぜ今この議論が起きているのか、過去の「ジュニアNISA」の失敗から何を学ぶべきか、そして私たちの生活にどう影響するのかを分かりやすく解説します。

なぜ今、NISAの「未成年者拡大」が議論されているのか?
2023年末に「ジュニアNISA」が廃止されたことで、現在、未成年者が新規に非課税で投資を始める制度は日本に存在しません。この「政策的な空白」を埋め、次世代の資産形成を支援するため、自民党税制調査会や金融庁が令和8年度(2026年度)の税制改正に向けて検討を開始しました。
主な背景には、以下の3つの要因があります。
- 金融業界・経済界からの強い要望「資産所得倍増計画」を全世代に広げるため、金融業界からは「0歳からNISAに加入できるようにすべき」という要望が以前からありました。
- 「子育て支援・少子化対策」としての側面将来の教育費不安は、少子化の大きな要因の一つです。早期から非課税で教育資金を準備できる環境を整えることは、「教育費不安の軽減」という子育て支援策の一環として位置づけられています。
- インフレと金融教育への関心の高まり物価上昇が続くなか、現金の価値が実質的に目減りするリスクが顕在化しています。子育て世帯では「子どもにお金の教育をしっかりしたい」というニーズが急速に高まっており、制度的な後押しが求められています。

旧「ジュニアNISA」はなぜ失敗したのか?
今回の議論を理解する上で欠かせないのが、なぜ旧「ジュニアNISA」が普及せず2023年末に廃止されたのか、その「失敗」の教訓です。
最大の理由は、「原則18歳まで払い出し(引き出し)ができない」という強力な制限にありました。
- 大学進学費用(18歳)を想定した制度でしたが、それ以前に必要な塾の費用や急な出費に対応できませんでした。
- 18歳未満で無理に引き出すと、過去に得た利益すべてに遡って課税されるという重いペナルティがありました。

この「使い勝手の悪さ」が利用者に敬遠され、制度は普及しませんでした。
皮肉なことに、制度廃止が決定し、2024年以降はペナルティなしで引き出せるようになってから、駆け込みでの口座開設が急増しました。これは「払い出し制限さえなければ魅力的な制度だった」ことを証明しています。
新しい未成年者NISAはどうなる? 3つのポイント
令和8年度改正で検討されている新制度は、この旧ジュニアNISAの失敗を踏まえたものになると予想されます。
1. 「つみたて投資枠」に限定する理由
今回の議論が、株式投資もできる「成長投資枠」を含めず、「つみたて投資枠」に限定されている点が重要です。
これは、金融リテラシーが未熟な未成年者(あるいは親権者)が、投機的な個別株投資に走るリスクを防ぐための「安全装置」と言えます。「つみたて投資枠」の対象商品は、金融庁が厳選した「長期・積立・分散投資」に適した投資信託のみです。これにより、「投資の王道」を学ぶという教育的な側面も担保されます。

2. 「払い出し制限」は撤廃・緩和が必須
旧制度の最大の失敗点であった「払い出し制限」は、新制度では撤廃されるか、少なくとも「教育資金目的なら非課税で引き出し可」といった形で大幅に緩和されることが必須条件となるでしょう。これが実現しなければ、再び「使い勝手の悪い」制度になってしまいます。
3. 成人NISAへのシームレスな移行
旧ジュニアNISAは、18歳になっても新NISA(成人NISA)の口座に資産を移管(ロールオーバー)できず、一度売却するか課税口座に移すしかありませんでした。新制度では、18歳到達時に自動的に成人NISAに組み込まれ、シームレスに資産形成を継続できる仕組みが期待されます。
最大の課題は「金融経済教育」の普及
制度(ハード)だけを整えても、それを使う側(ソフト)の知識がなければ、新制度は「金融リテラシーの高い家庭」だけが利用するものとなり、かえって金融格差を拡大させかねません。
- 政府の調査では、金融経済教育を受けた人の割合はわずか7%(2028年度末までに20%を目指す目標)。
- 保護者自身が「子どもに何を教えればいいか分からない」という現実があります。
- キャッシュレス化が進み、子どもが現金に触れ「おつりの計算」などお金の価値を学ぶ機会が減っています。
NISAの未成年者拡大は、学校教育や家庭での金融教育を抜本的に強化することと「セット」で進めなければならない、日本の大きな課題です。

今後のスケジュール:いつ頃決まる?
NISAの未成年者拡大は、以下のスケジュールで議論が進められます。
- 2025年8月末:金融庁が正式な「税制改正要望」を提出。
- 2025年9月~11月:自民党税制調査会で本格的な議論・調整。
- 2025年12月頃:「令和8年度与党税制改正大綱」が決定。
この「大綱」に盛り込まれれば、制度の導入が事実上決定します。その後、2026年の国会で法案が可決され、金融機関のシステム対応などを経て、早ければ2027年1月からスタートする可能性があります。
まとめ
NISAの「つみたて投資枠」を未成年者にも拡大する議論は、「貯蓄から投資へ」という国のスローガンを次世代につなぐ重要な一歩です。
旧ジュニアNISAの失敗を繰り返し、単なる「ハコ」を作るだけでなく、金融教育という「中身」をどう充実させていくか。令和8年度税制改正の議論は、日本の未来への本気度が試されています。