「最近、上場市場を変えるニュースが多い気がする…」
「持っている株がプライムからスタンダードに行くと言い出したけど、大丈夫?」
投資家の方なら、最近このような疑問を持ったことはないでしょうか?
実は2025年、東京証券取引所(東証)で市場区分を変更する企業が急増しています。その数は見込みを含めて35社に達し、前年の4倍以上という異例の事態となっています。

この記事では、なぜ今「市場変更(鞍替え)」が起きているのか、その背景にある「2025年問題」と、投資家が知っておくべきポイントを分かりやすく解説します。
2025年に何が起きているのか?:異例の「35社」
2022年に東証が「プライム」「スタンダード」「グロース」の3市場に再編されて以降、2025年は最も市場変更が多い年になる見込みです。
- 変更企業数:35社(見込み)
- 前年比:約4倍超
この数字は、通常の経済活動では考えられない「異常値」です。しかも、その内訳を見ると、ある明確なトレンドが浮かび上がってきます。
それは、約7割の企業が「スタンダード市場」への移行(選択替え)を選んでいるという事実です。

急増の「引き金」は2025年3月の「経過措置」終了
なぜ2025年にこれほど集中しているのか。その最大の理由は、東証のルール変更にあります。
「猶予期間」の終わり
2022年の市場再編時、実は本来の厳しい基準(プライム市場の基準など)を満たしていない企業でも、「計画書」を出せば暫定的に上位市場に留まれる「経過措置(けいかそち)」というルールがありました。
しかし、東証はこの「猶予期間」を終了させることを決定しました。その期限の目安となるのが、2025年3月です。
- これまで:「基準を満たしていなくても、頑張るならOK」
- 2025年3月以降:「基準を満たせないなら、退場(監理銘柄指定 → 上場廃止)」
つまり、多くの企業にとって2025年は「身の丈に合った市場を選ぶか、無理をして基準達成を目指すか」の決断を迫られるデッドラインだったのです。
なぜ「プライム」から「スタンダード」へ?決断の理由
プライム市場からスタンダード市場へ移る企業(東邦アセチレン、エノモト、エンビプロHDなど)が直面していた最大の壁は、「流通株式時価総額 100億円」という基準です。

「流通株式」のハードルが高い
単に時価総額が大きければ良いわけではありません。「流通株式」とは、創業者や役員、親会社などが持っている株を除いた、一般の投資家が売買できる株のことです。
- プライムの基準:流通株式時価総額 100億円以上
- スタンダードの基準:流通株式時価総額 10億円以上
日本の中堅企業は安定株主(持ち合い株など)が多く、株価も低迷している場合、「100億円」の壁は非常に高いものです。
維持コストが割に合わない
さらに、プライム市場には高い「ガバナンス・コスト」がかかります。
- 決算資料の英文開示義務
- 気候変動リスク(TCFD)の開示義務
- 社外取締役の増員
「海外投資家がほとんどいないのに、高い翻訳コストをかけて英文開示をする必要があるのか?」という経営判断から、コストと実益が見合うスタンダード市場を選ぶ企業が増えているのです。

注目の事例:アクシージア (4936)
化粧品会社のアクシージアは、2023年にグロースからプライムへ昇格したばかりでしたが、2025年7月にスタンダードへ変更します。わずか2年強での変更は、プライム維持の難しさを象徴しています。
「グロース」から「スタンダード」への移行も増加中
プライムからだけでなく、新興企業向けの「グロース市場」から「スタンダード市場」へ移るケース(ブランジスタ、エーアイなど)も増えています。
「成長の罠」からの脱却
グロース市場は「高い成長可能性」が求められるため、利益を配当に回さず、投資に回すことが期待されます。

しかし、事業が成熟してくると、無理な成長を追うよりも、「安定的に利益を出して、配当を出す」方が株主にとってもプラスになることがあります。
スタンダード市場に移ることで、「高成長株」から「高配当・バリュー株」へとリブランディングする狙いがあります。
投資家への影響は?株価はどうなる?
保有している銘柄が市場変更を発表した場合、投資家にはどのような影響があるのでしょうか。
短期的には「売り」が出る可能性
プライム市場から外れると、TOPIX(東証株価指数)などの指数に連動するインデックスファンドから、機械的に売りが出ることがあります(※TOPIXからは段階的に除外されるルールなどがあります)。そのため、発表直後は株価が下がりやすい傾向にあります。
長期的には「プラス」の可能性も
しかし、悲観することばかりではありません。
プライム市場では埋もれていた中小型株が、スタンダード市場に移ることで「優良な高配当銘柄」として再評価され、逆に注目度が上がるケースもあります(「鶏口となるも牛後となるなかれ」の論理)。
また、無理な株価対策に追われる必要がなくなり、経営陣が本業に集中できることで、長期的には企業価値が向上することも期待できます。
まとめ:これは「格下げ」ではなく「適正化」
2025年の市場変更ラッシュは、企業が「見栄」を捨てて「実利」を選んだ結果と言えます。

- 2025年3月の経過措置終了が最大の引き金。
- プライム維持のコストとハードルが高すぎるため、スタンダードへ避難。
- これはネガティブな「脱落」ではなく、身の丈に合った「適正化(Right-sizing)」。
投資家としては、「市場が下がったからダメな企業だ」と短絡的に判断せず、その企業が「なぜ市場を変えたのか?」「今後どのような株主還元方針(配当など)をとるのか?」を見極めることが、2025年の重要な投資戦略になるでしょう。
