2026年度(令和8年度)に行われる税制改正に向けて、私たちの生活に直結する二つの大きなテーマが議論の中心となっています。それは、「高校生年代の扶養控除の見直し」と「住宅ローン減税の延長」です。
どちらの議論も、政府が掲げる「異次元の少子化対策」と、国の財源をどう守るかという「財政規律」の板挟みになっています。
この記事では、なぜこの二つが大きな焦点となっているのか、その背景と議論のポイントを分かりやすく解説します。
昨日にはNISAについてもまとめておりますのでこちらもチェックしてみてください
焦点1:高校生の「扶養控除」は復活する? 児童手当との「ねじれ」が問題
一つ目の大きな論点は、高校生(16歳~18歳)の子供を持つ家庭の税負担に関わる「扶養控除」の扱いです。

なぜ今、扶養控除が問題に?
発端は、2024年10月から児童手当が高校生年代まで延長されることにあります。
実は、2011年(平成23年)に当時の民主党政権が「子ども手当」を導入した際、「手当を配る代わりに、税金の控除(年少扶養控除)はやめます」という方針転換がありました。
このとき、高校生年代の扶養控除も、上乗せ部分(25万円)が廃止され、控除額が63万円から38万円に引き下げられました。
議論のポイント:「二重支援」か「不公平の是正」か

今回の児童手当の延長で、「手当(児童手当)ももらい、控除(扶養控除)も受けるのは二重支援だ」という意見(主に財務省)と、「そもそも手当を理由に控除を減らされたのだから、手当を拡充するなら控除も元に戻すべきだ」という意見が対立しています。
- 扶養控除の「復活」賛成派の意見
- 政策の整合性: 2011年に「手当を配るから控除を減らす」と決めた。その手当を高校生まで延長するなら、減らした控除も元に戻すのが筋ではないか。
- 中間層の負担感: 大学受験などで教育費が最もかかる時期。月1万円の児童手当では、過去に失った控除(25万円分)による税負担増をカバーしきれない世帯が多い。
- 扶養控除の「復活」反対派の意見
- 財源の問題: 児童手当の延長で既に大きな財源を使っているのに、さらに控除(減税)を増やすと財政が持たない。「二重支援」になる。
- 公平性の問題: 税金を安くする「控除」は、所得が高い(税率が高い)人ほど得をする仕組み。所得に関わらず一定額を配る「手当」の方が、より公平な支援策である。
見通し
「完全復活」は財源的に難しいかもしれませんが、何らかの負担緩和策(例:控除額の引き上げなど)が政治的な妥協点として探られる可能性が高いです。

焦点2:住宅ローン減税は2026年以降どうなる?「子育て優遇」がカギ
二つ目の焦点は、2025年末で期限が切れる「住宅ローン減税」です。マイホームを購入した多くの人が利用する、年末のローン残高の0.7%が税金から戻ってくる制度です。
なぜ今、住宅ローン減税が問題に?
この制度は、2025年12月31日までに入居した人が対象です。2026年1月1日以降に入居する人は、制度がどうなるか全く決まっていません。
もし2025年末で制度が完全に打ち切られれば、住宅市場が「2026年の崖」と呼ばれるような急激な冷え込みに陥る危険性があります。
議論のポイント:「少子化対策」と「制度の欠陥」
この議論の大きなカギは、すでに「子育て世帯」を優遇する措置が導入されている点です。

2024年・2025年の入居では、「19歳未満の子供がいる世帯」や「夫婦どちらかが40歳未満の世帯」は、一般世帯よりも多くのローン減税を受けられる仕組みになっています。
- 制度延長の賛成派の意見
- 少子化対策との整合性: 「子育て世帯を優遇する」と決めたばかりなのに、2026年になった途端にその優遇ごと制度を打ち切るのは、政府の方針と矛盾する。
- 経済的ショックの回避: 住宅価格が高騰する中で減税がなくなれば、住宅の買い控えが起き、経済全体に悪影響が出る。
- 環境政策の推進: この減税は、ZEH(ゼッチ)住宅など、環境性能の高い「省エネ住宅」の普及を後押しする役割も担っている。
- 制度延長の反対(または見直し)派の意見
- 財政負担: 非常に大きな減税措置であり、国の財政を圧迫している。
- 制度の複雑さとミス: 会計検査院から「控除額の計算ミスが多発している」と長年指摘されており、税金の徴収漏れ(過大な還付)が発生している。
- 「逆ざや」問題: 現在の超低金利(例:変動金利0.3%)に対し、控除率が0.7%のため、「払う利息よりも戻ってくる税金の方が多い」という「逆ざや」状態が生まれている。これは減税ではなく「補助金」であり、制度としていびつだ。

見通し
経済への影響や少子化対策の観点から、制度が完全に廃止される可能性は低いです。
ただし、「現行制度のまま延長」も考えにくく、「子育て世帯」と「省エネ住宅」に対象を絞り込む形で制度を縮小・再設計しつつ、計算ミスを防ぐ仕組み(マイナンバー活用など)を導入することを条件に「延長」される、という形が最も現実的な着地点と見られています。
まとめ:令和8年度税制改正の行方
令和8年度の税制改正は、「少子化対策」という大きな政治目標と、「財政規律」や「制度の公平性」という現実的な壁の間で、難しい舵取りを迫られています。
- 扶養控除: 何らかの「見直し」が行われる可能性大。
- 住宅ローン減税: 「子育て・省エネ」に絞って「延長」される可能性大。
最終的な決定は2025年12月の「税制改正大綱」で示されます。私たちの暮らしに直結する議論として、今後の動向に注目が必要です。
