ネット印刷大手のラクスル株式会社(4384)が進めているMBO(経営陣による買収)に対し、長年の大株主である海外機関投資家たちが「NO」を突きつけました。
2025年12月に発表された1株1,710円というTOB(株式公開買付け)価格に対し、英運用会社ベイリー・ギフォードや香港の投資ファンドキーロック・キャピタルが「安すぎる」と公然と異議を唱えています。

本記事では、なぜ今回のMBOが揉めているのか、反対株主の狙いは何か、そして今後TOB価格は引き上げられるのかについて、最新情報を基に徹底解説します。
ニュースの要点:ラクスルMBOで何が起きているのか?
まず、騒動の現状を3つのポイントで整理します。
- MBO発表: ラクスルはゴールドマン・サックスと組み、非公開化(上場廃止)を目指して1株1,710円でのTOBを実施中。
- 大株主の反乱: 長期投資家のベイリー・ギフォード(英)とキーロック・キャピタル(香港)が「企業価値を過小評価している」として反対を表明。
- 株価の反応: 市場は価格引き上げを期待し、株価はTOB価格を上回る1,800円台後半で推移(2026年1月20日時点)。
当初は「平穏な非公開化」と思われていましたが、現在は「価格引き上げ」があるかどうかが最大の焦点となっています。
なぜ「1,710円」ではダメなのか?反対株主の主張
会社側は、TOB価格(1,710円)について「発表前日の終値に対して約40%のプレミアム(上乗せ幅)をつけているので妥当だ」と説明しています。しかし、専門的な分析を行う機関投資家は全く異なる見方をしています。

① 本来の価値(Intrinsic Value)との乖離
ラクスルは単なる印刷会社ではなく、物流(ハコベル)やコーポレートIT(ジョーシス)、広告(ノバセル)など、複数の成長エンジンを持つ「産業DXプラットフォーマー」です。
- 業績は好調: 直近のEBITDA(稼ぐ力)は前年比2桁成長を継続。
- 将来的価値: 世界的デザインツール「Canva」との提携など、今後の成長余地が大きい。
反対株主は、現在の株価は市場全体の低迷により一時的に下がっているだけであり、「本来の価値は2,000円〜2,500円程度ある」と見ている可能性が高いです。今の底値で売るのは「安売り」に他ならないという主張です。

② 「利益相反」への懸念
今回のMBOでは、既存株主は株を手放しますが、経営陣(松本会長・永見CEO)は再出資を行い、非公開化後も経営権を持ち続けます。
- 経営陣: 安く買収できれば、将来の再上場などで大きな利益を得られる。
- 既存株主: 安く買い叩かれると損をする。
この「経営陣だけが得をする構造」に対して、ガバナンス(企業統治)の観点から厳しい目が向けられています。
キーマンはこの2社!「物言う株主」の動向
今回のMBOの成否を握る2つの投資ファンドについて解説します。
🇬🇧 ベイリー・ギフォード(Baillie Gifford)

- どんな投資家?: Amazonやテスラ、メルカリなどに初期から投資する、世界的に有名な「超・長期投資家」。
- 今回の動き: 普段は経営陣に友好的な彼らが、日経新聞の取材に対し「価格が非常に低すぎる」と明言するのは極めて異例です。それほどラクスルの成長力を信じている証拠です。
🇭🇰 キーロック・キャピタル(Keyrock Capital)

- どんな投資家?: マネーフォワードやタイミーの大株主としても知られる、リサーチ重視の香港系ファンド。
- 今回の動き: MBO発表後に株式を買い増し、保有比率を8.53%まで急拡大させました。これは「今の市場価格(1,800円台)でもまだ安い」という強烈なメッセージであり、TOBを阻止できるだけの影響力を持ち始めています。
今後のシナリオ予測:TOB価格は上がるのか?
個人投資家が最も気になる「今後どうなるか」について、3つのシナリオを予測します。
| シナリオ | 可能性 | 展開予想 |
|---|---|---|
| A. TOB価格の引き上げ | 高 | 1,900円〜2,000円程度へ変更。 大株主の納得を得てMBOを成立させるため、買収側が折れるパターン。最も現実的。 |
| B. TOB不成立・中止 | 中 | 買収側が値上げを拒否。 応募が集まらずMBOは白紙に。株価は一時的に乱高下するが、ファンダメンタルズへの評価で高値を維持する可能性も。 |
| C. 第三者の対抗TOB | 低 | KKRなど他のファンドがより高値で買収を提案。ただし、経営陣の同意がないと難しいため可能性は低い。 |
投資家はどう動くべき?
現在、市場価格はTOB価格(1,710円)を上回っています。これは市場が「価格引き上げ」を織り込んでいる状態です。
既存株主にとっては、「市場で売却して利益を確定させる」か、「価格引き上げを信じてホールドする」かの選択になりますが、大株主の強硬姿勢を見る限り、価格見直しの期待値は高いと言えるでしょう。
まとめ:日本の株式市場が変わる分水嶺に
ラクスルのMBO騒動は、単なる価格交渉ではありません。「経営陣が有利な条件で会社を非公開化する」という日本の悪しき慣習に対し、海外投資家が「公正な価格(Fair Price)」を求めて立ち上がった象徴的な事例です。
ソフト99や太平洋工業のMBOでも、アクティビストの介入後に価格が引き上げられた前例があります。ラクスルの経営陣とゴールドマン・サックスが、市場の声にどう応えるのか、2月4日のTOB期限に向けて最大の注目が集まります。
本記事は情報提供を目的としており、特定の証券の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。