2025年の年末、貴金属市場に激震が走りました。
これまで歴史的な高値を更新し続けていたシルバーとプラチナの価格が突如として急落。「大晦日の強制清算(New Year's Eve Liquidation)」とも呼ばれるこのイベントは、多くの個人投資家にとって衝撃的な幕切れとなりました。
「なぜ急に暴落したのか?」
「ファンダメンタルズ(需給)が悪化したのか?」
その答えは、市場の監視役であるシカゴ・マーカンタイル取引所(CME)による「証拠金(マージン)の引き上げ」にあります。

本記事では、2025年末の貴金属暴落の舞台裏と、CMEの介入が市場に与えた影響、そして2026年の展望について分かりやすく解説します。
何が起きたのか?:2025年末の「大暴落」
2025年は、銀価格が年初来で倍増し、金やプラチナも歴史的高値を更新する「貴金属スーパーサイクル」の年でした。しかし、12月の最終週、その勢いは唐突に断ち切られました。
- 銀(Silver): 日中高値84ドルから70ドル台へ急落(2日間で約17%下落)
- プラチナ(Platinum): 12月31日だけで8%以上の暴落
- 金(Gold): 相対的に底堅いものの下落
この暴落の引き金となったのは、経済ニュースのヘッドラインではなく、先物市場のルール変更でした。
暴落の直接原因:CMEによる「証拠金引き上げ」
価格急落の主因は、CMEグループが過熱する投機熱を冷ますために行った、一連の証拠金(マージン)引き上げです。

証拠金とは、先物取引を行うために預け入れる担保金のこと。これが引き上げられると、同じポジションを維持するためにより多くの現金が必要になります。
異例の「ワン・ツー・パンチ」
CMEはわずか1週間の間に2度の引き上げを断行しました。
- 第一撃(12月29日発効):
- 銀の証拠金を約20,000ドルから25,000ドルへ引き上げ。
- これにより、週明けの市場で約9〜11%のフラッシュ・クラッシュが発生。
- ノックアウト・ブロー(12月31日発効):
- 銀の証拠金をさらに引き上げ、契約あたり約32,500ドルへ。
- わずか1週間で約50%ものコスト増となり、資金力のない個人投資家は撤退を余儀なくされました。
| 商品 | 変更前の証拠金(目安) | 変更後(12/31) | 変動率 |
|---|---|---|---|
| 銀 (SI) | ~$22,000 | ~$32,500 | 約+50% |
| 金 (GC) | $22,000 | $24,000 | 約+9% |

なぜ「証拠金引き上げ」で価格が暴落するのか?
仕組みはシンプルですが、その影響は破壊的です。
- レバレッジの低下: 証拠金が上がると、投資効率(レバレッジ)が強制的に下がります。
- 追証(おいしょう)の発生: 既存のポジションを維持するための資金が不足し、投資家は追加の現金を求められます。
- 強制決済(ロスカット): 現金を用意できない投資家(特に個人)は、ポジションを売って手仕舞いするしかありません。
- 売りが売りを呼ぶ: 強制的な売り注文が殺到し、価格が下落。それがさらに他の投資家の追証を招く「負の連鎖」が発生しました。
今回の措置は、AIブームや太陽光発電需要で膨らんだ「投機的なバブル」を意図的に潰すための規制介入だったと言えます。
暴落の背景:AI需要と投機熱
そもそも、なぜこれほど規制が強化されたのでしょうか?

- 実需の爆発: 太陽光パネルやAIデータセンター向けの導電材として、銀の需要が急増。「貴金属」から「戦略的テクノロジー金属」へと評価が変わりました。
- 投機マネーの流入: 「ミーム株」のように個人投資家が殺到し、マイクロ先物の取引高が前月比127%増を記録するなど、市場が過熱していました。
- 地政学リスク: 各国中央銀行による現物資産の囲い込み(金属戦争)が起きていました。
CMEは、市場の健全性を保つため、この過剰な熱狂に冷水を浴びせる必要があったのです。
2026年の展望:まだ強気相場は終わっていない?
暴落はしましたが、専門家の多くは「構造的な強気相場は崩れていない」と見ています。

今後のポイント
- 実需は消えていない: 証拠金が上がっても、AIやグリーンエネルギーに必要な銀が不足している事実は変わりません。
- 現物価格との乖離: 先物価格(ペーパー)は下がりましたが、上海などの現物市場では依然として需要が強く、価格差(スプレッド)が開いています。
- 投資チャンス: 今回の下落は、過剰な投機筋が整理された「健全な調整」とも捉えられます。
結論
今回の暴落は、ファンダメンタルズの悪化ではなく、「規制による強制的な調整」でした。
短期的には不安定な動きが続く可能性がありますが、長期的には産業需要と金利環境が貴金属価格をサポートするでしょう。
