「月々の支払いが家賃並みで新築が買える」
「将来は家を売ってローンを精算できるから安心」
こんな甘い言葉とともに、最近注目を集めているのが「残価設定型住宅ローン(通称:住宅版残クレ)」です。国土交通省が普及を後押ししているこの制度ですが、実は「生涯支払額が激増する」「老後破産のリスクがある」という危険な側面を含んでいることをご存知でしょうか?

この記事では、専門的な分析レポートをもとに、安易に「住宅版残クレ」に手を出す前に知っておくべき3つの致命的なリスクを分かりやすく解説します。
そもそも「残価設定型住宅ローン」とは?
自動車の「残クレ」と同じ仕組みを、数千万円のマイホームに適用したものです。
借入額の一部(例えば2,000万円)を「残価」として50年後などに据え置き、残りの部分だけを毎月返済します。
- メリット: 元本の返済分が減るため、月々の支払額が安くなる。
- 仕組み: 数十年後に「家を売って精算」するか「再びローンを組む」かなどを選ぶ。
一見、若年層でも家を買いやすくする画期的な制度に見えますが、ここには金融工学的な「罠」が潜んでいます。
危険性①:月々は安いが「総支払額」は数百万円も損をする
最大の落とし穴は「金利」です。
多くの人は「返済を後回しにした残価部分(2,000万円)」には金利がかからない、あるいは最後に払えばいいと勘違いしがちです。しかし実際は、据え置いている2,000万円に対しても、毎月きっちり利息が発生し続けます。

衝撃のシミュレーション比較
5,000万円の家を金利1.5%(35年)で買った場合を比較してみましょう。
| 比較項目 | 普通の住宅ローン | 残クレ住宅ローン |
|---|---|---|
| 毎月の返済 | 約15.3万円 | 約10.9万円(安い!) |
| 35年後の借金 | 0円(完済) | 2,000万円(残ってる) |
| 35年間の総支払額 | 6,427万円 | 6,586万円(残価精算含む) |
| 結果 | 資産が残る | 約160万円多く払う上に家を失う可能性 |
月々の支払いが4万円安くなったとしても、裏では「減らない元本」に対する利息を払い続けているため、トータルでは高級車1台分以上の損をすることになります。
「安く買える」のではなく、「利息を多く払って、支払いを先延ばしにしているだけ」なのです。
危険性②:逃れられない「強制メンテナンス」の呪縛
住宅版残クレを利用するには、JTI(移住・住みかえ支援機構)が認定する「かせるストック」という基準を満たす必要があります。これが厄介な「維持費地獄」を招きます。
自分の家なのに自由にできない?
JTIによる残価保証(将来買い取ってくれる約束)を維持するためには、以下のような厳しい義務が課されます。
- 定期点検の義務化: 数年ごとに数万円の点検費用がかかる。
- 強制修繕: 指摘された箇所(外壁や屋根など)は、お金がなくても直さなければならない。
- 各種手数料: 認定料や登録料で、最初に数十万円が飛んでいく。
普通の持ち家なら「今年は子供の学費がかかるから、リフォームは来年にしよう」という調整ができます。しかし、残クレ住宅ではそれが許されません。
「ローンの返済+強制的な修繕積立金」で、家計は想像以上に圧迫されます。

危険性③:老後を直撃する「金利上昇」と「長生きリスク」
「定年後はリバースモーゲージ(利息だけ払い)に切り替えれば楽になる」というセールストークも要注意です。
変動金利の恐怖
リバースモーゲージの多くは変動金利です。
もし30年後に金利が現在の0.5%から3.0%に上がっていたらどうなるでしょうか?
- 残価2,000万円の利息払い:
- 金利0.5%なら → 月額 約8,300円
- 金利3.0%なら → 月額 50,000円
年金生活の中で、住居費がいきなり6倍に跳ね上がるリスクがあります。しかも元本は減らないため、この支払いは死ぬまで一生続きます。
長生きすればするほど利息を吸い上げられ、老後資金が枯渇する──これが「長生きリスク」の正体です。

まとめ:国の施策=安全ではない
国土交通省がこの制度を推す背景には、「空き家対策」や「中古住宅市場の活性化」という国の事情があります。しかし、それが個人の資産形成にとって正解とは限りません。
【結論】残クレ住宅ローンはこんな人には危険!
- 「総支払額」よりも「目先の月々の安さ」を優先してしまう人
- 将来の金利上昇リスクを許容できる資産的余裕がない人
- 自分の家は自分の好きなタイミングで手入れしたい人
- 子供に資産として家を残したい人
「月々○○円で新築に住める!」という甘い広告を見たときは、その裏にある「消えない借金」と「終わらない利息」の存在を思い出してください。多くの人にとって、地道に元本を減らしていく王道の住宅ローンの方が、最終的には家族と資産を守ることにつながります。
※本記事は一般的なシミュレーションに基づく解説です。個別の契約条件や金利情勢により詳細は異なります。
