なぜ総理の辞任で株価は動くのか?
「石破総理、辞任の意向」――。
多くの投資家が固唾をのんで見守るこの瞬間、株価は感情的に動いているように見えますが、実はもっと論理的です。
市場が本当に見ているのは、「次のリーダーによって、日本の経済政策がどう変わるのか?」という一点に尽きます。

- 景気にとってプラスと判断されれば、株価は上がる(例:大規模な経済対策への期待)
- マイナスと判断されれば、株価は下がる(例:増税や緊縮財政への警戒)
- 現状維持なら、株価の動きは限定的
この記事では、過去の事例を振り返りながら、もし石破総理が辞任した場合に起こりうる株価のシナリオを、誰にでも分かりやすく、多角的に分析していきます。不確実な時代だからこそ、政治の動きを読み解く知識は、あなたの大切な資産を守るための「羅針盤」となります。
過去3人の首相辞任から学ぶ「株価の法則」
未来を予測するためには、まず歴史から学ぶことが重要です。近年の3つの首相辞任は、それぞれ異なる株価の反応を引き起こしました。

法則①:「安定」が失われると株価は下がる(安倍元首相)
- いつ?: 2020年8月28日
- 株価: 一時600円以上も急落
- なぜ?: 「アベノミクス」という、海外投資家にも分かりやすい安定した政策ブランドが失われることへの不安が広がりました。市場が最も嫌うのは「先が読めないこと(不透明感)」である、という典型的な例です。
法則②:「停滞」からの脱却期待で株価は上がる(菅元首相)
- いつ?: 2021年9月3日
- 株価: 580円以上も急騰
- なぜ?: 支持率が低迷し、経済政策に閉塞感が漂っていたため、リーダー交代が「好材料」と見なされました。「これで状況は良くなるはず」という安堵感と、新政権による大規模な経済対策への期待から、株価は大きく上昇しました。
法則③:「不人気だが既知」なリーダーの不在は乱高下を招く(岸田元首相)
- いつ?: 2024年8月14日
- 株価: 一時500円下落後、最終的に200円高へ
- なぜ?: 反応が最も複雑でした。
- 【下落要因】: まず政治が不安定になることへの不安から売られました。
- 【上昇要因】: しかし、すぐに「もっと市場寄りのリーダーが登場するかも」という期待感から買い戻されました。
この3つの事例から、「誰が、なぜ辞めるのか」そして「次に誰が来るのか」という組み合わせが、株価の方向性を決定づけることが分かります。
首相 | 辞任報道日 | 市場の反応 | キーワード |
---|---|---|---|
安倍 晋三 | 2020年8月28日 | 下落 📉 | 安定の喪失 |
菅 義偉 | 2021年9月3日 | 上昇 📈 | 安堵と期待 |
岸田 文雄 | 2024年8月14日 | 乱高下 📉📈 | 不透明感と期待 |
現在の市場の前提:「石破政権」は何を評価されている?
石破総理の辞任による影響を考えるには、今の市場が「石破政権」をどう見ているかを知る必要があります。

「石破テーマ株」と呼ばれる銘柄
石破政権は、特に以下の分野に力を入れています。
- 防衛:防衛予算の大幅な拡充(例:三菱重工業、IHI)
- 防災:「防災省」創設構想(例:能美防災)
- 地方創生:「地方創生2.0」の推進(例:NECネッツエスアイ、TIS)
これらの政策を追い風に株価が上昇している銘柄は「石破テーマ株」と呼ばれています。もし石破総理が辞任すれば、この追い風が弱まる可能性があり、これらの銘柄は真っ先に影響を受けると考えられます。
市場が警戒する「石破ディスカウント」とは?
一方で、市場は石破総理の過去の発言、特に「金融所得課税の強化」を警戒しています。これは、株の利益にかかる税金を引き上げるというもので、投資家心理を冷え込ませる可能性があります。
現在はその動きを見せていませんが、この懸念が株価の重しになっている側面を「石破ディスカウント」と呼ぶことができます。
つまり、石破総理の辞任は…
- 【マイナス面】:「石破テーマ株」から追い風がなくなる
- 【プラス面】:「金融所得課税強化」のリスクが後退する
この2つの綱引きになるため、後継者候補の政策次第で市場の反応は大きく変わるでしょう。
「ポスト石破」は誰?候補者別・株価シナリオ予測
総理辞任のニュースが出た瞬間、市場の関心は一斉に「次の総理は誰か?」に移ります。主要候補者たちの経済政策と思想を見ていきましょう。
候補者 | タイプ | 経済政策スタンス | 市場の反応予測 |
---|---|---|---|
高市 早苗 | 積極財政派 | アベノミクス継承。財政出動と金融緩和を重視。 | 強気 📈(景気刺激策への期待) |
河野 太郎 | 財政タカ派 | 財政規律を最優先。痛みを伴う社会保障改革も。 | 弱気 📉(緊縮財政への警戒) |
小泉 進次郎 | 構造改革派 | 労働市場の規制緩和など、ミクロ経済の改革を重視。 | 不透明 📊(期待と不安が交錯) |
茂木 敏充 | 安定成長派 | 政策の継続性を重視。増税なき経済成長を目指す。 | 中立~やや強気 📈(安心感) |
林 芳正 | バランス派 | 主要閣僚を歴任した経験と安定感が強み。 | 中立 😐(波乱要因になりにくい) |
注目すべき3つの政策対立軸
- 財政は「出す」か「締める」か?:高市氏(出す) vs 河野氏(締める)が最大の対立点。
- 金融所得課税は「やる」か「やらない」か?:投資家心理に直結する最重要テーマ。
- 痛みを伴う「構造改革」に踏み込むか?:小泉氏や河野氏が積極的。短期的な混乱を市場が嫌う可能性も。
政治の裏側で株価を動かす「3つの大きな力」
個々の政治家の政策だけでなく、もっと大きな構造的要因も株価に影響を与えます。

① 外国人投資家の視点
日本株の売買の約7割を占める彼らは、最終的な審判者です。彼らが重視するのは「分かりやすく、成長を期待できるストーリー」があるかどうか。複雑な改革派や緊縮財政派より、安定感のあるリーダーや、単純明快な景気刺激策を掲げるリーダーを好む傾向があります。
② 「選挙は買い」のアノマリー
実は、衆議院解散から選挙投開票日までの期間、過去の選挙ではすべて株価が上昇しています。これは、選挙期間中は各党が耳触りの良い経済政策を公約するからです。もし辞任が解散総選挙につながれば、このアノ-マリーによる上昇圧力と、政治の不確実性による下落圧力がぶつかり合い、非常に不安定な相場になる可能性があります。
③ 「ねじれ国会」のリスク
選挙の結果、与党が過半数を失う「ねじれ国会」になれば、どんな政策も前に進まなくなります。これは市場にとって最大のリスクシナリオ。法案を通せない総理では意味がないため、市場は候補者の政策だけでなく「選挙に勝てる顔か?」という点も厳しく評価します。

まとめ:投資家が取るべき戦略とは?
では、私たちはどうすればいいのでしょうか? 最後に、具体的なシナリオと注目すべきシグナルをまとめます。
4つの想定シナリオ
- シナリオA:安定継承(後継者:茂木氏/林氏)→ 一時的な下落後、政策の継続性が好感され回復へ。
- シナリオB:リフレ期待(後継者:高市氏)→ 大規模な財政出動期待から、強い上昇相場へ。内需関連株が有望。
- シナリオC:緊縮ショック(後継者:河野氏)→ 財政引き締めを嫌気し、株価は大幅下落へ。最も警戒すべきシナリオ。
- シナリオD:政治的停滞(辞任 → 総選挙 → ねじれ国会)→ 先行き不透明感から、持続的な下落相場へ。
今すぐウォッチリストに入れるべき5つのシグナル
- 辞任の「理由」:党内の権力争いか?国民の支持離れか?
- 自民党内の「派閥」の動き:どの候補を支持するかが鍵。
- 候補者の「金融所得課税」に関する発言:最重要チェック項目。
- 各種「世論調査」の動向:「選挙の顔」は誰かを見極める。
- 投資部門別売買動向:外国人投資家が「買い」に転じるか「売り」に転じるか。
総理大臣の辞任は、市場に大きな変動(ボラティリティ)をもたらすイベントです。しかし、その裏側にあるロジックを理解すれば、それはリスクであると同時に、新たな投資チャンスを見つける機会にもなります。この記事を参考に、冷静に市場の動きを分析し、次の潮流を掴みましょう。