2026年2月24日、東京証券取引所グロース市場にイノバセル株式会社(証券コード:504A)が新規上場(IPO)します。
イノバセルは、オーストリアのインスブルック医科大学発の技術をベースにしたバイオテクノロジー企業であり、「自分の筋肉細胞で失禁を治す」という画期的な再生医療製品を開発しています。

本記事では、この注目の「クロスボーダー型バイオベンチャー」について、事業内容、公募価格、スケジュール、そして投資家が知っておくべきリスクまで、リサーチ情報を基に詳しく解説します。
1. イノバセル(504A)のIPO基本データとスケジュール
まずは、投資家にとって最も重要なスケジュールと公募価格等の基本情報を整理します。
上場スケジュール(2026年)
| イベント | 日付 | 投資家の行動 |
|---|---|---|
| 仮条件決定日 | 2月4日(予) | 公募価格のレンジが決まります |
| ブックビルディング期間 | 2月5日〜2月10日 | 購入希望を申告する期間です |
| 公開価格決定日 | 2月12日 | 正式な売り出し価格が決まります |
| 購入申込期間 | 2月13日〜2月18日 | 当選・補欠当選後の購入手続き期間 |
| 上場日(公開日) | 2月24日 | 東証グロース市場で取引開始 |
株式情報・オファリング規模
今回のIPOは、時価総額約500億円規模の大型案件となります。
- 市場: 東証グロース
- 証券コード: 504A
- 想定公開価格: 1,290円
- 想定時価総額: 約538億円
- 吸収金額(OA含む): 約135億円
- 主幹事証券: 野村證券(副幹事:SBI証券 他)
ポイント
吸収金額が約135億円とグロース市場としては大型です。需給バランスがカギとなりますが、主幹事が野村證券であることから、海外機関投資家への販売力が期待されます。
2. どんな会社?「クロスボーダー型」再生医療企業の正体

イノバセルの最大の特徴は、「頭脳は東京、心臓(技術・製造)は欧州」というユニークな企業構造にあります。
企業構造と戦略
- 創業: 2000年にオーストリアで創業。
- 現在: 2021年に日本法人を設立し、オーストリア法人を完全子会社化。
- 狙い: 日本の「再生医療等製品に対する条件付き・期限付き承認制度」を活用し、世界に先駆けて日本での実用化を目指す「Japan First」戦略を採用しています。
独自の治療技術:aSMDCとは
同社のコア技術は、自家骨格筋由来細胞(aSMDC)を用いた細胞治療です。

- 採取: 患者自身の筋肉を少量採取。
- 培養: オーストリアのGMP施設で数千万個まで増やす。
- 投与: 患者の括約筋(肛門や尿道)に注射する。
- 効果: 筋肉が再生し、物理的に「漏れ」を防ぐ機能が回復する。
既存の薬が「神経」に作用するのに対し、イノバセルの技術は「筋肉そのものを再生する」根治的な治療法です。
3. 開発パイプラインの進捗:なぜ「今」注目なのか
一般的なバイオIPOは開発初期(第I相、第II相)での上場が多い中、イノバセルは「最終段階(第III相)」にある製品を持っています。
主力製品:ICEF15(切迫性便失禁治療)
- 対象疾患: 切迫性便失禁(便意を感じてから我慢できずに漏れてしまう症状)。
- 開発段階: 国際共同第III相試験(日本・欧州)実施中。
- 市場性: 高齢化に伴い患者数は増加傾向ですが、有効な治療法が少なく、アンメット・メディカル・ニーズ(未充足の医療ニーズ)が高い領域です。

ICEF15とは?
イノバセル社が開発中の、患者自身の細胞を使った便失禁治療製品です。現在、開発の最終段階である第III相試験を行っており、成功すれば世界初の画期的な治療法となる可能性があります。
その他のパイプライン
- ICES13(腹圧性尿失禁): 欧州で第II相試験を終了し、良好な結果を得ています。ICEF15の承認後、開発が加速すると見られます。
4. 資金の使い道と財務状況
財務データ(直近)
- 売上高: なし(開発段階のため)
- 営業利益: 約▲18.7億円の赤字
- 資金調達: これまでSBIグループやメディパルHDなどから累計115億円以上を調達。さらに欧州投資銀行(EIB)から融資を受けており、技術力への国際的な評価は高いと言えます。
今回のIPO資金(約108億円)の使い道
調達した資金の大部分は、現在進行中の「ICEF15 第III相試験の完遂」と「承認申請費用」に充てられます。これにより、製品発売までの資金的な道筋(ランウェイ)が確保される見込みです。
投資リスクと注意点(デューデリジェンス)
バイオベンチャーへの投資には高いリスクが伴います。以下の点は必ず押さえておきましょう。
① 治験失敗リスク(バイナリーリスク)
最大の焦点は、現在行われている第III相試験の結果です。

もし主要評価項目を達成できなかった場合、株価は大きく下落する可能性があります。特に「失禁」領域はプラセボ(偽薬)効果が出やすく、有意差の証明が難しい分野でもあります。
② 承認スケジュールの遅延
日本の承認制度は世界的に見て有利ですが、PMDA(規制当局)の審査は厳格です。追加データの提出などを求められれば、承認時期が後ろ倒しになり、追加資金が必要になるリスクがあります。
③ 物流・コストリスク
患者の細胞を日本で採取し、オーストリアへ空輸して加工し、再び日本へ戻すという複雑なサプライチェーンを持っています。為替(円安ユーロ高)や輸送コストの上昇は、将来の収益性を圧迫する要因となります。
まとめ:イノバセル(504A)IPOの評価
イノバセルは、「グローバルな開発体制」と「後期開発段階(レイトステージ)」を併せ持つ、日本の市場では希少な大型バイオIPOです。
- 強み: 科学的に妥当性の高い技術、第III相という開発の進捗、強力な株主構成。
- 懸念: 巨額の赤字、治験成功への依存度、大型上場による需給の重さ。
投資判断のポイントは、「2026年〜2027年頃に見込まれる治験結果発表」というイベントリスクを許容できるかどうかにあります。成功すれば、高齢化社会の深刻な悩みを解決する企業として、大きなアップサイドが期待できる銘柄と言えるでしょう。
本記事は情報の提供を目的としており、投資の勧誘を目的とするものではありません。投資判断は、必ず発行会社が作成する目論見書等をご確認の上、ご自身の責任で行ってください。