2025年11月10日、半導体製造装置メーカーのTOWA(6315)が株式市場で大きな注目を集めました。株価は値幅制限いっぱいとなる「ストップ高」(前日比+23.82%)を記録。
しかし、その直前の週末に発表された決算は、一見すると「大幅減益」というネガティブな内容でした。なぜ、減益決算にもかかわらず、これほどまでの買いが殺到したのでしょうか?
本記事では、この「逆説的」な株価急騰の裏にある、市場の高度な読みとTOWAの真の評価について、分かりやすく解説します。

そもそも何が起きたのか?:11月10日の熱狂
まず、事実関係を整理しましょう。
- 出来事: 2025年11月10日(月)、TOWAの株価がストップ高(+500円、終値2599円)まで買われました。
- きっかけ: 前週末の11月7日(金)引け後に発表された、2026年3月期 第2四半期(中間期)決算発表です。
- 決算内容(一見すると悪材料):
- 売上高:前年同期比 -14.4%
- 営業利益:前年同期比 -52.6%
- 最終利益:前年同期比 -51.7%
普通に見れば「売り」材料になりそうな大幅減益です。さらに、会社は通期の業績予想を上方修正せず「据え置き」ました。それでも株価が爆発的に上がった背景には、投資家たちが読み取った「3つの真実」がありました。
真相①:「見た目の減益」よりも「予想超え」が凄すぎた

株式市場では、過去の実績(前年比)よりも、「事前の期待(コンセンサス)に対してどうだったか」が重視されます。
アナリストたちは半導体市況の低迷から、TOWAの中間決算は非常に厳しいものになると予想していました。しかし、蓋を開けてみるとTOWAはその低い予想を大きく裏切る「良い意味でのサプライズ」を起こしたのです。
| 指標(中間期・経常利益) | 金額 | 評価 |
|---|---|---|
| 市場の事前予想(コンセンサス) | 約 13.9 億円 | 投資家の期待値 |
| TOWAの実際の発表 | 約 23.9 億円 | 期待を大きく上回る! |
| サプライズ度(乖離率) | +71.8% | ポジティブ・サプライズ |
前年比では半分になっていても、市場のプロたちの予想を70%以上も上回る利益を叩き出した。これが一つ目の「買い」材料です。
真相②:「据え置き」予想は、実は「自信の裏返し」?
もう一つの謎は、これだけ良い決算だったのに、なぜ通期の予想を「上方修正」しなかったのか、という点です。
会社側は「まだ不透明な要素が多い」として慎重な姿勢(据え置き)を崩しませんでした。しかし、これを市場は逆にポジティブに捉えました。
- 通期の利益目標: 98億円
- 中間期までの実績: 約24億円(進捗率 約24%)
一見、進捗が遅れているように見えますが、直近で利益率が劇的に改善していることを考えると、この目標達成は容易に見えます。投資家はこう判断しました。
「会社はわざと目標を低く設定している(保守的すぎる)。このペースなら、今後間違いなく上方修正されるはずだ!」
今の「据え置き」は、将来の「上方修正」を約束するようなものだと受け止められたのです。

真相③:TOWAはもはや「AI半導体銘柄」である
そして最も重要なのが、TOWAが「普通の半導体装置メーカー」から「AI関連の成長企業」へと再評価(リ・レーティング)されたことです。
今回、利益が予想以上に良かった最大の理由は、「高付加価値製品」が売れたからでした。この「高付加価値製品」の正体こそ、今話題の生成AIに不可欠なHBM(広帯域メモリー)を作るための装置です。
AI時代におけるTOWAの強み
- 世界シェアNo.1技術: HBMの製造には、チップを特殊な樹脂で固める高度な技術が必要です。TOWAの「コンプレッション(圧縮)モールド技術」は、この分野で世界首位を独走しています。
- 次世代「HBM4」でも先行: すでに次世代規格である「HBM4」向けの技術も確立しており、将来の成長も約束されています。
つまり今回のストップ高は、「TOWAは、AIブームが続く限り成長し続ける企業だ」と市場が完全に認めた瞬間だったと言えるでしょう。
まとめ:数字の裏にある「質の変化」を見逃すな

2025年11月10日のTOWAストップ高は、単なるマネーゲームではありません。
- 市場予想を70%以上も上回る「稼ぐ力」の回復
- 将来の上方修正を期待させる「保守的すぎる」会社予想
- AI(HBM)という最強テーマでの「圧倒的優位性」の証明
これら複合的な要因が、一見すると悪い「減益決算」の裏に隠されていたのです。投資においては、表面的な数字だけでなく、その中身(質)を見極めることの重要性を教えてくれる好例と言えます。