Googleが開発したAIコーディングアシスタント「Jules」が、ソフトウェア開発のあり方を大きく変えようとしています。
「また新しいAIツール?」
と思うかもしれませんが、JulesはGitHub Copilotのようなリアルタイムのコード補完ツールとは一線を画す、

「非同期型」のAIエージェントです。
この記事では、Julesがどのようなツールで、既存のAIアシスタントと何が違うのか、そして開発ワークフローにどのような革命をもたらすのかを、誰にでも分かりやすく解説します。
Julesの最大の特徴:「ペアプログラマー」から「タスク委任」へ

Julesと他のAIコーディングツールとの最も大きな違いは、その働き方にあります。
- GitHub Copilotなど(リアルタイムアシスタント)
- 開発者がコードを書いている隣で、次の一行を提案してくれる「ペアプログラマー」のような存在。
- 常に開発者との対話が必要。
- Google Jules(非同期エージェント)
- 「このバグを修正して」「このライブラリを最新版に更新して」といったタスクを丸ごと任せられる「非常に優秀なジュニア開発者」のような存在。
- 依頼後はJulesが裏側で作業を進め、完了したらプルリクエスト(PR)で報告してくれる。
つまり、Julesを使えば、開発者は面倒な作業をAIに委任し、その間に別の創造的なタスクに集中できるのです。
これは、開発者の役割を「コードを書く人」から「タスクを管理・監督する人」へとシフトさせる、大きなパラダイムシフトと言えます。
Julesを支える3つのコア技術

Julesの強力な機能は、最先端の技術によって支えられています。
1. 頭脳は最新AI「Gemini 2.5 Pro」
JulesはGoogleの高性能LLM「Gemini 2.5 Pro」を搭載。
自然言語で書かれた指示やGitHub Issueの内容を深く理解し、リポジトリ全体を分析して複雑なタスクの実行計画を立てることができます。
2. 安全な実行環境「サンドボックス」
各タスクは、隔離されたクラウド上の仮想マシン(VM)内で実行されます。これにより、あなたのローカル環境や本番環境に影響を与えることなく、安全にコードの変更やテストが行えます。プライベートなコードがAIの学習に使われることもありません。
3. AIによるAIのレビュー「批評家強化生成」
Julesの最も革新的な機能が、この「批評家(Critic)」機能です。
これは、Julesが生成したコードを人間に見せる前に、内部の別のAIがピアレビューを行う仕組みです。
「このアルゴリズムは非効率的だ」「このテストケースが漏れている」といった、単なる構文チェックでは見つけられない論理的な問題をAI自身が発見し、修正します。
これにより、人間がレビューするプルリクエストの質が格段に向上し、レビュー担当者の負担を大幅に削減します。
Julesの基本的な使い方:委任からマージまでの流れ
Julesは既存のGitHubワークフローにシームレスに統合できます。

- タスクを依頼する
- GitHub Issueを使う方法:修正したいバグや実装したい機能のIssueに
assign-to-jules
というラベルを付けるだけ。 - JulesのUIを使う方法:専用のWeb UIからリポジトリを選び、直接プロンプトを入力する。
- GitHub Issueを使う方法:修正したいバグや実装したい機能のIssueに
- 【承認フェーズ1】計画のレビュー
- Julesはコードを書き始める前に、まず「どのファイルをどう変更するか」という詳細な計画を提示します。
- 開発者はこの計画を確認し、問題がなければ承認します。AIの思考プロセスが可視化されるため、安心して任せられます。
- 【承認フェーズ2】コードのレビュー
- 計画が承認されると、Julesはタスクを実行し、最終的な成果物をGitHubのプルリクエストとして提出します。
- 開発者は、人間が作成したものと全く同じようにコードをレビューし、問題がなければマージします。

他のAIコーディングツールとの比較
ツール | 運用パラダイム | 主な強み | 差別化要因 |
---|---|---|---|
Google Jules | 非同期エージェント | リポジトリ全体のリファクタリング、保守タスク | 批評家強化生成、タスクの完全委任 |
GitHub Copilot | リアルタイムアシスタント | 1行単位の高速なコード補完 | IDEとの深い統合 |
Amazon CodeWhisperer | エコシステム特化型 | AWSサービスとの連携コード生成 | AWS環境でのセキュリティスキャン |
Devin | 自律型エンジニア | エンドツーエンドでのプロジェクト実行 | 高い自律性(実験的) |
Julesの得意なこと・苦手なこと
✅ 得意なユースケース
- 保守・アップグレード:依存関係の更新やライブラリのバージョンアップ
- 大規模リファクタリング:コードベース全体へのコーディング規約の適用
- 定型コードの生成:ユニットテストやドキュメントの自動生成
- 明確なバグ修正:再現手順がはっきりしているバグの修正
⚠️ 限界と課題
- 実行速度:タスクの開始までにVMのセットアップなどで時間がかかり、数分〜数十分待つことがある。
- プロンプトの質:指示が曖昧だと、期待外れの結果になることがある。明確で具体的な指示が必要。
- コード品質:高品質なコードを生成することもあれば、冗長なコードや新たなバグを生み出すこともあり、まだ改善の余地がある。

料金プラン
Julesは、Google One AIプランの一部として提供されています。
プラン | 日次タスク上限 | 特徴 |
---|---|---|
無料プラン | 15回 | 機能評価や個人プロジェクト向け |
AI Proプラン | 100回 | プロの開発者の日常業務向け |
AI Ultraプラン | 300回 | 大規模プロジェクトやパワーユーザー向け |
まとめ:Julesはソフトウェア開発の未来か?
Google Julesは、単なるコード生成ツールではなく、開発者の認知負荷を軽減し、より創造的な仕事に集中させることを目的とした戦略的なツールです。
「批評家」機能による品質担保や、2段階の承認プロセスによる信頼性の確保など、企業が安心して導入できる仕組みが考え抜かれています。
まだ実行速度などの課題はありますが、Julesが示す「AIに面倒な仕事を委任する」という非同期アプローチは、間違いなくソフトウェア開発の未来の一端です。
まずは無料プランから、あなたのプロジェクトの保守タスクやテスト生成などで試してみてはいかがでしょうか。