2025年、日本のスタートアップ界隈と株式市場に大きな地殻変動が起きています。
「上場ゴール」と揶揄されるような小規模な上場が激減し、代わりに筋肉質な「大型上場」が主流となりつつあります。
本記事では、2025年のIPO(新規株式公開)市場のデータを紐解きながら、東証グロース市場で起きている「量から質へ」の転換と、それがスタートアップや投資家に与える影響について分かりやすく解説します。

衝撃のデータ:IPO社数は激減、しかし時価総額は急増
2025年のIPO市場を象徴するのは、「社数の劇的な減少」と「規模の拡大」という相反する現象です。
12年ぶりの低水準となった上場社数
東京証券取引所グロース市場における2025年のIPO社数は41社にとどまりました。これは前年比で約4割もの減少であり、東日本大震災後の停滞期以来、実に12年ぶりの低水準です。
これまで「年間100社」近くが当たり前だったIPO市場に、急ブレーキがかかった形となります。
時価総額中央値が「100億円」を突破
一方で、上場する企業の「質」は大きく変化しています。

IPO時の時価総額の中央値は前年比で7割も増加し、過去10年間で初めて100億円の大台を超えました。
これまでは数十億円規模での上場が一般的でしたが、2025年は「上場するなら時価総額100億円以上」が事実上のスタンダードになったと言えます。
背景にある「東証の改革」と「100億円の壁」
なぜ、これほど急激に市場環境が変化したのでしょうか?その最大の要因は、東京証券取引所(東証)による市場改革と、それに伴う審査の厳格化です。
「小粒上場」抑制への舵切り
東証は、上場後の成長が見込めない「小粒上場(スモールIPO)」を減らす改革に着手しました。
特にインパクトが大きいのが、グロース市場における上場維持基準の見直しです。
新ルール
上場から5年経過後に時価総額100億円以上を維持すること
このルール変更により、「とりあえず上場して資金調達」という安易な戦略は通用しなくなりました。5年後に確実に100億円を超えられる成長ストーリーが描けなければ、入り口(審査)の段階で弾かれてしまうのです。

証券会社の審査も厳格化
この動きに呼応して、主幹事となる証券会社の審査も厳しくなっています。上場後の廃止リスクを避けるため、未上場の段階ですでに一定の規模と収益性を持つ企業を選別する「ゲートキーパー」としての機能が強化されました。
スタートアップの生存戦略はどう変わる?
「小さく産んで大きく育てる」という従来の上場モデルが崩れた今、スタートアップの出口戦略(Exit)も多様化しています。

M&A(合併・買収)が新たな主流に
IPOのハードルが上がったことで、大企業によるM&Aが有力な選択肢として定着し始めました。
- イノベーションの取り込み:大企業側も成長のためにスタートアップの技術や人材を求めている。
- 税制優遇:政府のオープンイノベーション促進税制などがM&Aを後押し。
「IPO=成功、M&A=失敗」という古い価値観は過去のものとなり、戦略的なM&Aが増加しています。
未上場での成長期間が長期化
今後は、未上場のまま大型の資金調達を行い、事業を数十億円規模まで育ててから満を持して上場する「レイターステージ」の期間が長くなるでしょう。
投資家にとってのメリットは?
この変化は、投資家にとってはポジティブな側面も大きいと言えます。

- 「上場ゴール」企業の排除:成長性の低い企業が市場に入りにくくなることで、投資対象としての市場の質が向上します。
- 機関投資家の参入:時価総額が大きくなることで、流動性を重視する機関投資家や海外投資家が参入しやすくなります。
- ボラティリティの低下:投機的なマネーによる「初値高騰(IPOポップ)」が沈静化し、中長期的な企業価値に基づいた投資がしやすくなります。
まとめ:大選別時代の到来
2025年のIPO市場のデータは、日本のスタートアップ・エコシステムが「量(数多くのIPO)」から「質(強い企業の創出)」へと完全にシフトしたことを示しています。
- IPO社数は4割減の41社(12年ぶり低水準)
- 時価総額中央値は100億円超え(過去10年初)
- 背景には東証の市場改革と審査厳格化
これからのスタートアップには、早期から「上場後の持続的な成長」を見据えた経営体力とガバナンスが求められます。投資家としては、厳選された「本物」の企業に出会えるチャンスが増える市場環境になったと言えるでしょう。
