キオクシア株価急落(-23%)の真相:決算とガイダンスの「ダブル・ミス」が理由か?【2025年7-9月期】

キオクシア株価急落(-23%)の真相:決算とガイダンスの「ダブル・ミス」が理由か?【2025年7-9月期】

2025年11月14日、日本の大手半導体メーカー、キオクシアホールディングス(東証:285A)の株価が、1日で23%も暴落するという衝撃的な出来事がありました。市場では売り注文が殺到し、ストップ安水準まで下落しました。

この株価急落は、前日(11月13日)に発表された2025年度第2四半期(7月~9月期)の決算が直接的な引き金となりました。

AIブームに乗り、半導体セクター全体が活況と見られていた中、なぜキオクシアだけがこれほどまでに売られたのでしょうか?

この記事では、株価急落の背景にある「2つの失望(ダブル・ミス)」と、キオクシアが抱える「根本的な構造問題」について、専門的な内容を分かりやすく解説します。

理由1:期待外れの「第2四半期決算(7-9月期)」

株価暴落の1つ目の理由は、発表されたばかりの「過去(7-9月期)」の業績が、市場の期待を大きく下回る「決算ミス」だったことです。

市場のアナリストたちは、AIブームの恩恵でキオクシアの業績は好調だと予想していました。しかし、蓋を開けてみると、結果は「大幅な減収減益」でした。

  • 市場の期待(コンセンサス): 純利益 474億円
  • キオクシアの実績: 純利益 407億円

実績は市場の期待を約14%も下回り、純利益は前年の同じ時期と比べて61.7%も減少しました。これが、投資家による「失望売り」の第1波を引き起こしました。

理由2:さらに深刻な「将来の業績見通し(10-12月期)」

過去の決算以上に投資家に衝撃を与えたのが、2つ目の理由である「将来(10-12月期)」の業績見通し(ガイダンス)です。株価は未来の収益力を映す鏡であるため、このガイダンスは決算発表で最も注目されるポイントです。

キオクシアが示した見通しは、市場の楽観的な期待を完全に打ち砕くものでした。

  • 市場の期待(コンセンサス): 営業利益 1,500億~1,800億円
  • キオクシアの見通し(ガイダンス): 営業利益 1,200億円

会社が示した見通しは、市場の期待値を約27%(金額にして450億円規模)も下回るものでした。

過去の業績(理由1)が悪かっただけでなく、未来の業績(理由2)も期待できない。この「ダブル・ミス」が確認されたことで、投資家のパニック売りが加速し、23%もの歴史的な株価暴落につながったのです。

なぜキオクシアだけが苦戦? 根本的な「構造問題」

ここで一つの大きな疑問が浮かびます。NANDフラッシュメモリの市場価格は高騰しており、他の競合他社はAIブームの恩恵を受けて業績が急拡大しています。なぜ、キオクシアだけがこのブームから取り残されているのでしょうか?

その答えは、キオクシア固有の「構造問題」、すなわちアップル(Apple)との固定価格契約にあると指摘されています。

「アップルの手錠」が利益を圧迫

キオクシアは長年、iPhone向けフラッシュメモリの主要な供給元です。通常、アップルのような大口顧客との長期・固定価格契約は、経営を安定させる「資産」となります。

しかし、2025年のような歴史的なAIブーム下では、この契約が逆に「負債」や「手錠」となってしまいました。

  1. 市場が高騰しても、安く売らざるを得ないNANDメモリの市場価格が「半年で2倍」になるほど高騰しているにもかかわらず、キオクシアは契約に基づき、(今や割安となった)固定価格でアップルに製品を供給し続けなければなりません。
  2. 「儲かる仕事」ができないアップル向けの生産にリソースを割かざるを得ないため、AIデータセンター向けなどの「利益率が非常に高い」製品を作る余裕がなくなってしまいます。

決算報告で触れられた「利益率の低いスマートフォン向け製品(=アップル向け)の割合が増えた」という「プロダクト・ミックスの悪化」は、まさにこの構造問題が原因です。

キオクシアは、市場のブームによる利益を享受できず、むしろ利益を犠牲にしてアップルのiPhone生産を支えている形となっていたのです。

まとめ:暴落の裏で、アナリストは「買い」を推奨?

非常に興味深いのは、株価が23%も暴落した一方で、モルガン・スタンレーなどの大手証券会社のアナリストが「今は魅力的な買い場(エントリー・ポイント)だ」とレポートしている点です。

これは、投資家の間で「投資の前提」が真っ二つに割れたことを示しています。

  • 短期投資家(売った人たち)「キオクシアはAIブームに乗れていない。今すぐ儲からないなら不要だ」(→ 23%の株価暴落を引き起こした)
  • 長期投資家(アナリストなど)「今年はアップル契約のせいでダメだが、その契約が終わる(あるいは見直される)*来年(2026年)*になれば、溜め込んでいた力が解放され、とてつもない利益が出るだろう」(→ 2026年の利益予想を84%も引き上げ、「買い」を推奨)

今回の株価暴落は、「今すぐの勢い(モメンタム)」を重視する投資家から、「将来の価値(バリュー)」を重視する長期投資家へと、株主が暴力的に入れ替わるプロセスだったと結論付けられます。

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