ANAのマイレージプログラムにおいて、一度取得すれば半永久的に上級会員資格を維持できるスーパーフライヤーズカード(SFC)は、多くの旅行者にとって憧れの的でした。しかし近年、このSFC制度を巡る環境が大きく変化しており、ANAは制度の見直しに向けた背景を説明し始めています。

本記事では、SFC会員数がコロナ前の1.5倍に急増している実態や、カード利用額の低い会員が約3割を占めるというデータをもとに、今後の制度変更の行方や、既存会員・これからSFC修行を目指す方への影響を深く考察します。
スーパーフライヤーズカード制度が直面する現代の課題
SFCは、指定のステータス(プラチナ以上)を獲得した後に申し込めるクレジットカードであり、年会費を払い続ける限りANAの上級会員特典(優先搭乗、専用保安検査場の利用、ANAラウンジの利用など)を享受できる魅力的な制度です。しかし、現状のシステムはビジネスモデルとして限界を迎えつつあります。

コロナ前と比較して会員数が大幅に増加
最大の課題は、想定を大きく上回る会員数の増加です。ANAの発表によると、現在のSFC会員数は新型コロナウイルス感染拡大前の約1.5倍にまで膨れ上がっています。
この背景には、複数の要因が絡み合っています。
一つは、SNSや動画投稿サイトの普及により「SFC修行」(ステータス獲得のためだけに飛行機に乗り続ける行為)の認知度が飛躍的に高まり、一般層にも広く浸透したことです。
もう一つは、コロナ禍においてANAが既存会員を引き留めるために実施した、プレミアムポイントの特別付与やステータス延長などの救済措置です。これらの要因が重なり、ステータス保持者の数が飽和状態に達しました。
会員数の急増は、結果として空港ラウンジの慢性的な混雑や、優先搭乗の行列の長期化など、プレミアムな体験そのものの価値を低下させる要因となっています。
年間カード利用額が低い会員の存在と収益性の圧迫
もう一つの深刻な課題は、カード利用の実態にあります。ANAの調査によって、SFC会員のうち年間のクレジットカード利用額が50万円未満の層が全体の約30%を占めていることが明らかになりました。
SFCは「一度取得すれば年会費のみで維持できる」という性質上、取得後は飛行機にほとんど乗らず、日常の買い物でもメインカードとして決済利用しない「休眠会員」に近い層が一定数存在します。
航空会社にとって、高いコストをかけて維持しているラウンジや優先サービスは、本来、自社の航空便を頻繁に利用し、あるいは提携クレジットカードで多額の決済を行って収益に貢献してくれる優良顧客(ロイヤルカスタマー)に還元するためのものです。
決済額も少なく搭乗回数も少ない会員へのサービス提供コストは、経営的にも無視できない負担になりつつあることが伺えます。
制度見直しによる既存会員と新規取得への影響
これらの背景を踏まえ、ANAがSFC制度に何らかのメスを入れることは避けられない情勢です。先行してライバルであるJAL(日本航空)がJGC(JALグローバルクラブ)の制度を抜本的に改定し、生涯の実績ベース(Life Status ポイント)へ移行したことも、ANAの決断を後押しする要因となっています。

プレミアムサービスの品質維持に向けた対策の方向性
今回の制度見直しの最大の目的は、増えすぎた会員を整理し、真の優良顧客に対して快適な空間と上質なサービスを提供し直すことです。
現状のラウンジ混雑や、ステータス会員向けの国内線先行予約、国際線特典航空券の取りやすさへの悪影響を解消するため、ANAは顧客の「現在の貢献度」をより重視する方向へシフトしていくことが予想されます。
単なる搭乗回数だけでなく、日常の決済やANA経済圏(ライフソリューションサービス)の利用状況を複合的に評価する仕組みの強化です。
今後のステータス維持に求められる条件の変化
今後予想される具体的な見直し案としては、SFCの更新や特典の利用に対して「条件付き」となる可能性が高いと考えられます。
例えば、SFCの資格自体は維持できても「年間のカード決済額が100万円以上」あるいは「年間の搭乗実績が一定水準以上」を満たさない場合は、ラウンジの利用回数に制限が設けられたり、優先搭乗の順番が後回しにされたりするなど、実績に応じた特典の細分化(ティア制の導入)が行われる可能性があります。
これにより、これからSFC修行を検討している方にとっても、取得後の維持コストやご自身のライフスタイルとの相性を、これまで以上に慎重に見極める必要が出てくるでしょう。
まとめ:ANAが目指す顧客ロイヤリティの再構築

ANAによるSFC制度の見直し案の浮上は、単なるサービスの改悪(デジタルの切り捨て)ではなく、時代と実態に合わせた顧客ロイヤリティの正常化プロセスと言えます。
企業として適切な収益性を確保しつつ、本当にANAグループのサービスを愛用し、事業に貢献している顧客に対して最高の体験を提供するための再構築です。
ユーザー側も「ただ持っているだけでお得」という認識から脱却し、SFCの年会費や将来設定されるかもしれない決済条件に見合う価値を本当に享受できるのかを、自身のライフスタイルと照らし合わせて再評価する時期に来ています。
今後のANAからの正式な発表に、多くの旅行業界やマイラーたちの注目が集まります。