3Dプリンターを使っていると、誰もが一度は
「定着しない!」
「モデルが反ってしまう!」
という問題に直面しますよね。特にABSやASAのような扱いにくいフィラメントでは、ベッドの温度管理が悩みの種です。
そんな中、BIQUから登場したCryoGrip Pro "Glacier Panda" ビルドプレートは、
「ベッドをあまり温めなくても強力に定着する」「省エネで反りも少ない」という夢のような性能を謳い、大きな注目を集めています。
しかし、その評判を調べてみると、「最高のプレートだ!」という絶賛の声と、「全く使えない…」という厳しい意見が混在しているのが実情です。

この記事では、そんな謎多き「BIQU CryoGrip Pro Glacier」について、技術的な特徴からユーザーのリアルな声、そして失敗しないための最適設定まで、徹底的に掘り下げてレビューします。このプレートが本当にあなたの3Dプリンターライフを向上させる「神アイテム」なのか、それとも「人を選ぶ気難しい製品」なのか、この記事を読めばすべて分かります!
A1 miniサイズ
BIQU CryoGrip™ Pro Glacier Panda ビルドプレート Bambu-Lab A1 Mini 3Dプリンター用、両面ファインテクス...
P1S P1P X1C X1E A1サイズ
BIQU CryoGrip Pro Glacier Panda ビルドプレート Bambu-Lab P1S P1P X1C X1E A1 3Dプリンター用、両面ファ...
BIQU CryoGrip Proとは? 話題の「コールドプリント」技術
BIQU CryoGrip Proは、FDM 3Dプリンターのビルドプレートに関する2大課題、「定着性」と「エネルギー消費」を解決するために開発されたアップグレードパーツです。
最大の特徴は、低いベッド温度(あるいは室温)でもフィラメントが強力に定着するという「コールドプリント」技術。これにより、以下のようなメリットが期待できます。
- エネルギーコストの削減
- 反りの低減
- プリント開始までの待機時間短縮
- ヒートクリープ(熱によるエクストルーダーの詰まり)の防止
注意点:「Glacier」と「Frostbite」は別物です
CryoGrip Proシリーズには、見た目と用途が異なる2つのモデルが存在します。これを間違えると期待した性能が得られないので注意が必要です。
- Glacier(本記事の主役): きめ細かい滑らかな質感が特徴。PLAやPETGはもちろん、ABSやPCなどのエンジニアリングフィラメントにも対応する汎用モデル。
- Frostbite: 粗いザラザラした質感。PLAとPETGの低温定着に特化したモデル。
属性 | Glacier (きめ細かい) | Frostbite (粗い) |
---|---|---|
表面仕上げ | 滑らか | 粗い |
主な対応材料 | PLA, PETG, ABS, PC, PAなど広範囲 | PLA, PETGに特化 |
PLA推奨温度 | 45–55 °C | 30–50 °C |
洗浄方法 | 石鹸と水、アルコールOK | 石鹸と水のみ |
汎用性を求めて「Glacier」を選んだユーザーが、「Frostbite」のような極低温でのPLA定着を期待してしまい、結果的に「定着しない!」と評価してしまうケースが多く見られます。
Glacierは幅広い材料を、従来よりは低い温度で安定させるためのプレートと理解するのが正解です。
なぜ定着する? 秘密は革新的な「7層構造」
このプレートの心臓部が、両面に施された先進的な7層構造です。
- コア層: 強力な磁力を持ち、変形を防ぐ硬いバネ鋼。
- 接着層: コアと機能層を強力に結びつけ、剥離を防ぐ。
- 保護層: ノズル衝突などの衝撃からプレートを守る。
- 表面層: 多孔質の特殊ポリマーコーティング。この層が分子レベルでフィラメントを引きつけ、低温でも強力な定着力を生み出します。
従来のPEIプレートが熱でフィラメントを溶かして接着するのに対し、CryoGripは微細な凹凸による物理的なグリップと、分子間引力という2つの力で定着させるのが大きな違いです。

最大の謎:「驚くほど定着する」vs「全く定着しない」問題
この製品レビューで最も不可解なのが、ユーザーからの評価が真っ二つに割れている「定着性のパラドックス」です。
PLA/PETG
- 絶賛: 「人生最高のプレート。30℃でもガッチリ定着して反りとは無縁になった」
- 酷評: 「ゴミ。何をしても数層で剥がれる。純正プレートの方がマシ」
ASA/ABS
- 絶賛: 「ASAとの相性が抜群。問題なく使えている」
- 酷評: 「水と油のように弾かれる。薄いモデルは固着して二度と取れなくなった」
なぜ、これほどまでに評価が分かれるのでしょうか?調査の結果、3つの根本原因が浮かび上がってきました。
原因1:製造品質のバラツキ(最有力説)
最も可能性が高いのが、製品の個体差です。

「届いたプレートの質感が表と裏で違う」「複数買ったら全部質感が違った」という報告が多数あり、表面のポリマーコーティングの品質が安定していないことを示唆しています。つまり、定着しない「ハズレ個体」が存在する可能性が高いのです。
原因2:表面の汚染と間違った洗浄方法
このプレートの表面は非常にデリケートです。手の油分はもちろん、保湿成分などを含む洗剤で洗うと、性能が著しく低下することがあります。また、メーカーの情報が錯綜しており、「アルコール洗浄OK」という資料と「アルコールは表面を永久に傷つける」という資料が混在しています。これがユーザーの混乱を招き、性能を最大限に引き出せない原因となっています。

原因3:スライサー設定の罠
Bambu Labなどのプリンターには「クールプレート」用のプロファイルが用意されていますが、このプロファイルをCryoGrip Proで使うと失敗するという報告が非常に多いです。このプレートは、メーカー純正のクールプレートとは熱の伝わり方などが異なり、専用の設定が必要になります。
結論として、品質の良い「アタリ個体」を引き、正しい洗浄方法とスライサー設定を行えば最高の体験ができるが、一つでも欠けると失敗に終わる、というのがこのパラドックスの真相のようです。
デザインと使い勝手は?
大きなハンドルは高評価
ハニカムデザインの断熱ハンドルは、多くのユーザーから賞賛されています。特にBambu Labの純正プレートと比較して、高温時でも安全かつ簡単につかめる点は大きなメリットです。
プリント底面の仕上がり
Glacierプレートは、プリントの底面を非常に光沢のある(グロッシーな)仕上がりにします。標準的なPEIプレートのマットな質感が好きな人には向きませんが、ツルツルした底面が好みなら理想的なプレートです。
耐久性への懸念
- コーティングの欠け: ノズルワイプ(清掃)エリア周辺のコーティングが剥がれたり欠けたりするという報告があり、長期的な耐久性には少し不安が残ります。
- 化学的な臭い: 新品の状態では強い化学臭がすることがありますが、これは使用しているうちに消えていくようです。

失敗しないための最適化ガイド【決定版】
コミュニティの知見を基に、このプレートの性能を100%引き出すための実践的なガイドをまとめました。
1. 推奨スライサー設定の「黄金律」
「Bambu Cool Plate」プロファイルは絶対に使わないでください。
まず基準とすべきは「Textured PEI Plate(テクスチャPEIプレート)」プロファイルです。ここから温度を調整していくのが成功への近道です。
フィラメント | 推奨ベッド温度 | 主な注意点 |
---|---|---|
PLA | 45–55 °C | PEIプロファイルのデフォルトから開始。反り低減効果が高い。 |
PETG | 60–75 °C | 非常に強く固着する。完全に冷めてから剥がすこと。 |
ABS/ASA | 90–110 °C | コールドプリントは不可。 メーカー推奨の標準的な高温設定で使う。 |
PC | 100–110 °C | 接着剤なしでも良好な定着性を発揮。高温設定で使う。 |
TPU | 40–60 °C | 他のプレートで固着しすぎる場合に有効。剥離が容易。 |
2. 正しいメンテナンス・洗浄方法
「IPA(イソプロピルアルコール)は避ける」のが最も安全です。
- 初回洗浄: プレートが届いたら、まず温水と油分や保湿剤を含まないシンプルな食器用洗剤(米国のユーザーは"Dawn"を推奨)を使い、柔らかいスポンジで優しく洗い、製造時の油分を完全に落とします。
- 日常の清掃: プリントの合間は、清潔なマイクロファイバークロスで拭くだけでOK。指紋が付いたり定着性が落ちてきたら、再度、石鹸と水で洗浄してください。
3. よくある問題と解決策
- パージラインが定着しない: 初層のベッド温度を5℃上げるか、開始G-codeを編集してパージラインの位置を少し内側にずらします。
- プリントが固着しすぎる: PETGやTPUでは、プレートが完全に室温まで冷めるのを待ちます。それでも取れない場合は、プレートを優しく曲げてください。最終手段として、冷凍庫に10分ほど入れると剥がしやすくなります。金属ヘラでこするのは絶対にやめましょう。
BIQU CryoGrip Pro Glacierはどんな人におすすめ?
このプレートは、大きな可能性を秘めた野心的な製品ですが、製造品質のバラツキという重大な問題を抱えています。
【推奨できる人】
- 調整や実験が好きな人: トラブルシューティングを楽しみ、「アタリ個体」を引くリスクを許容できるなら、その恩恵は非常に大きいです。特に反りやすいABSやPCを多用するユーザーには試す価値があります。
- 光沢のある底面が欲しい人: プリント底面の仕上がりにこだわりがあるなら、ユニークな選択肢となります。
【推奨できない人】
- 「すぐ使える」手軽さを求める人: 箱から出してすぐに安定した結果を求めるユーザーには、現状ではおすすめできません。信頼性の高いメーカー純正のPEIプレートの方が確実です。
- PLA/PETGの低温プリントが主な目的の人: この場合は、Glacierではなく特化モデルの**「Frostbite」**を選ぶべきです。
最終的な見解として、CryoGrip Pro Glacierは「未来を感じさせるが、まだ発展途上の製品」と言えるでしょう。品質管理が安定すれば、多くのユーザーにとって標準装備となりうるポテンシャルを持っています。しかし現時点では、その性能は一種の「賭け」であることを理解した上で購入を検討すべき製品です。