世界の温室効果ガス排出量のうち、コンクリート製造が占める割合は約 8% にものぼると言われています。その主な原因は、主原料であるセメントの製造過程で発生する大量の CO2 です。

こうした中、国内ゼネコン大手の大成建設は、CO2 排出量を最大 90% 抑えた革新的なコンクリート素材を開発しました。三井物産やドイツ企業と連携し、2030 年をめどに欧州での供給網を構築するこのプロジェクトは、世界のインフラ部門におけるカーボンニュートラル達成の切り札として注目を集めています。
大成建設の「T-eConcrete」技術:セメントを使わない驚異の製造プロセス
大成建設が開発した「T-eConcrete」は、従来のコンクリート製造の常識を覆す技術です。

通常、コンクリートはセメントに砂利や砂、水を混ぜて作られます。しかし、T-eConcreteではセメントの代わりに、製鉄の副産物である「高炉スラグ」を活用します。高炉スラグの CO2 排出量はセメントの 30 分の 1 以下であり、これを活用することで製造段階の排出量を劇的に削減できます。
T-eConcreteプラットフォームには、用途に応じて以下の 4 つのバリエーションが用意されています。
- 建築基準法対応型:セメントを一部削減し、約 60% の CO2 を削減。
- フライアッシュ活用型:石炭灰を利用し、61% ~ 81% の削減を実現。
- セメント・ゼロ型:セメントの使用量を 0% とし、最大 80% の削減を追求。
- Carbon-Recycle(カーボンリサイクル):回収した CO2 を炭酸カルシウムとして固定。排出量よりも吸収量が多い「カーボンネガティブ」を実現。
鉄道枕木に革命を起こす技術的ブレイクスルー
鉄道のレールを支える「枕木」には、電車の重荷重に耐える極めて高い強度と耐久性が求められます。低炭素コンクリートをこの分野に適用するには、いくつかの高いハードルがありました。
粘性の克服と強度発現の加速
これまでの技術では、CO2 を固定しようとするとコンクリートの粘性が上がり、施工性が悪くなる課題がありました。大成建設は独自の化学混和剤技術により、高い流動性と早期の強度発現を両立。プレストレストコンクリート(PC)枕木に不可欠な初期強度を確保することに成功しました。
エネルギー消費を抑える「常温養生」の実現
従来の枕木製造では、強度を出すためにボイラーによる「蒸気養生(高温加熱)」が必須であり、これが工場での CO2 排出の一因となっていました。T-eConcrete技術は常温下で急速に硬化するため、この蒸気養生プロセスを全面的に省略できます。これは環境負荷の低減だけでなく、製造コストの抑制にも直結する大きなイノベーションです。
2030年欧州供給網構築に向けた強力な3社連合
大成建設はこの技術を世界に広めるべく、強力なパートナーシップを構築しています。

- 大成建設:技術提供およびライセンス供与、配合技術のサポートを担います。
- 三井物産:グローバルな物流網を活用し、原料となる高炉スラグや回収 CO2 由来の炭酸カルシウムの安定調達をリードします。
- PCM RAILONE AG(独):ドイツ鉄道(DB)から最高評価を受ける枕木製造大手。欧州の厳格な鉄道安全基準に準拠した製造と認定プロセスを担当します。
この連合により、2030 年までに欧州全域へ低炭素枕木を供給する体制を整え、将来的には一般の建設資材への展開も視野に入れています。
欧州市場における競争優位性と環境規制への適応
欧州連合(EU)は、鉄道網の整備において資材の「内包カーボン(製造段階の炭素排出)」に対する厳しい入札ルールを設けています。
現在、欧州の競合他社も低炭素コンクリートの開発を進めていますが、その多くは排出量 40% 削減程度に留まっています。大成建設のコンソーシアムが掲げる「最大 90% 削減」という数値は、環境プレミアムを重視する欧州の公共入札において圧倒的な優位性を持つと考えられます。
今後の課題と持続可能なインフラへの展望
T-eConcreteの普及において、唯一の懸念点は主原料である「高炉スラグ」の供給リスクです。世界的な鉄鋼業界の脱炭素化(電炉シフト)に伴い、将来的に高炉スラグが不足する可能性があります。


大成建設はこれに対し、石炭灰(フライアッシュ)や未焼成粘土など、多様な代替材料を柔軟に取り入れられる技術開発を並行して進めています。
鉄道枕木という過酷な条件下で証明されたこの技術は、やがて都市のビルや橋梁など、あらゆる建設資材に応用されるでしょう。日本発の環境技術が、世界のインフラを「緑」に変えていく日は、すぐそこまで来ています。