2024年12月の再上場以降、キオクシアホールディングス(285A)の株価動向が注目を集めています。当初は市場の評価が厳しかったものの、生成AIブームの新たな波に乗り、株価は大きく変動しています。
「なぜ今、メモリー企業であるキオクシアがAI銘柄として注目されているのか?」
「2027年3月期に向けた業績はどうなるのか?」
本記事では、キオクシアが直面している「AI主導型スーパーサイクル」の正体と、今後の株価を左右するポイントについて、初心者の方にも分かりやすく解説します。

キオクシア株価の軌跡:上場時の低迷から「AI本命」への転換
IPO当初の苦戦と市場の誤解
2024年12月18日、キオクシアは東証プライム市場に再上場しました。しかし、当初の評価は決して芳しいものではありませんでした。
- 公開価格:1,455円
- 初値:1,440円(公開価格割れ)
市場は過去の赤字や、メモリ市況の波(シリコンサイクル)を懸念し、「キオクシア=従来のコモディティ企業」と見ていました。

AI需要で評価が一変!テンバガー級の急騰も
しかし2025年に入ると状況は一変します。生成AIの進化により、「データを保存する場所(ストレージ)」の重要性が再認識されたのです。
株価は一時、上場来高値である14,405円を記録。これは上場時の約10倍(テンバガー)に迫る勢いでした。
なぜAIにキオクシアが必要なのか?(NANDの役割)
「AIといえばGPU(NVIDIAなど)」というイメージが強いですが、実はNAND型フラッシュメモリー(SSD)がなければ、最新のAIは動きません。その理由は大きく2つあります。

① AI学習の「待ち時間」をなくす
巨大なAIモデルを学習させる際、システムは定期的に「チェックポイント(途中経過の保存)」を行います。
このデータ量は膨大で、従来のHDD(ハードディスク)では保存に時間がかかりすぎ、その間高価なGPUを遊ばせてしまうことになります。キオクシアの高速SSD(PCIe 5.0対応)は、この時間を劇的に短縮し、開発効率を最大化します。
② 「データレイク」としての巨大な器
AIが質問に答えるために外部データを検索する「RAG(検索拡張生成)」という技術が普及しています。
これには膨大なデータを読み書きする必要がありますが、すべてをメインメモリ(DRAM)に置くのはコストが高すぎます。そこで、「大容量かつ高速で、コストパフォーマンスが良い」キオクシアのQLC SSDが、AIデータの巨大な湖(データレイク)として選ばれているのです。
2027年3月期の業績予想:過去最高益への期待
投資家が最も気になるのが、今後の業績見通しです。特に2027年3月期(2026年度)は、キオクシアにとって飛躍の年になると予想されています。

供給不足(ショート)による価格上昇
半導体業界では、過去の不況で各社が設備投資を抑えたため、2026年〜2027年にかけて深刻な供給不足が発生すると見られています。
AI需要は年率20%以上で伸び続ける一方、供給はすぐには増やせません。これが「スーパーサイクル」を引き起こし、製品価格の高止まりが期待されます。
アナリストコンセンサス(予想)
市場のアナリストたちは、2027年3月期に以下の水準を見込んでいます。
| 項目 | 予想レンジ | ポイント |
|---|---|---|
| 売上高 | 1.9兆円〜2.1兆円 | AI向けSSDの割合増加 |
| 営業利益 | 6,000億円〜7,000億円 | 利益率20~30%台へ |
| EPS(一株益) | 500円〜600円 | バリュエーション妙味あり |
キオクシアの強み:他社にない「CBA技術」とは?
競合のサムスンやマイクロンと戦うための武器が、キオクシア独自の「CBA (CMOS directly Bonded to Array) 技術」です。
専門的な話を極力省いて説明すると、「記憶する部分(メモリ)」と「制御する部分(回路)」を別々に作って、最後にピタッと貼り合わせる技術です。

- メリット1:それぞれを最適な工場で作れるので、性能が上がる。
- メリット2:超高速なデータ転送が可能になる(AI向き)。
- メリット3:不良品を減らせる(コストダウン)。
この技術を搭載した第8世代(BiCS8)製品が、現在AIデータセンターでシェアを拡大しています。
投資家が注意すべきリスク:ベインキャピタルの売り
明るい材料が多い一方で、最大のリスク要因についても触れておく必要があります。それが筆頭株主であるベインキャピタルによる株式売出し(オーバーハング)です。
- 現状:ベインキャピタルはまだ発行済株式の4割強を保有しています。
- リスク:株価が上がると、彼らは利益確定のために株を売ります。市場に大量の株が出回るため、一時的に株価が下がります(需給悪化)。
2025年11月にも売出し報道で株価が調整しました。しかし、長期目線の投資家にとっては、この調整局面が「安く買えるチャンス(押し目買い)」になる可能性もあります。
まとめ:キオクシアは買いか?
キオクシアホールディングスは、単なるメモリメーカーから「AIインフラの必須企業」へと脱皮しようとしています。

- ポジティブ:AIによる構造的な需要増、2027年3月期の好業績期待、独自の技術力。
- ネガティブ:大株主の売り圧力、米中規制などの地政学リスク。
短期的には株価の乱高下(ボラティリティ)が予想されますが、AI時代のデータセンターに不可欠な存在であることは間違いありません。リスクを理解した上で、中長期的な視点で注目すべき銘柄と言えるでしょう。
