「テキストを入力するだけで、AIが歌付きのオリジナル曲を作ってくれる」
SunoやUdioの登場により、そんな夢のような話が現実になりました。しかし、その裏側では「商用利用の制限」や「著作権問題」といった課題も浮上しています。
そんな中、音楽制作の常識を根底から覆す可能性を秘めた、完全無料・商用利用OK・オープンソースの音楽AIが彗星のごとく現れました。
その名も「YuE(ユエ)」。

この記事では、AI音楽界の"Stable Diffusion"とも呼ばれる「YuE」とは何なのか、その驚くべき性能からSunoとの違い、そして気になる始め方まで、誰にでも分かりやすく徹底解説します。
音楽AI「YuE」とは? 著作権を気にせず使える革命児
YuEは、AI研究コミュニティM-A-Pと香港科技大学が共同開発した、歌詞から楽曲を生成するオープンソースAIです。名前は中国語の「音楽(乐)」に由来します。
YuEが「革命的」と言われる最大の理由は、そのオープンな姿勢にあります。

YuEの3つの大きな特徴
- 完全無料 & 商用利用OKYuEは、個人利用・商用利用を問わず誰でも無料で使える「Apache 2.0ライセンス」を採用。クレジット表記などいくつかのルールを守れば、作った曲で収益を得ることも可能です。
- 透明性の高いオープンソースプログラムの設計図であるソースコードが全世界に公開されています。これにより、世界中の開発者がYuEを改良したり、新しいツールを開発したりできます。
- 著作権問題への明確な回答現在、SunoやUdioは大手レコード協会から「著作権のある曲を無断で学習データに使った」として大規模な訴訟を起こされています。これは、サービスを利用するクリエイターにとって大きなリスクです。一方、YuEはオープンなライセンスを提供することで、ユーザーが法的な不確実性を避けられる選択肢を示しました。AI音楽の未来は、透明性にあるという開発者の強い意志の表れです。
Sunoを超える?YuEの驚くべき機能と技術
無料だからといって、性能が低いわけではありません。YuEはプロのクリエイターも唸らせる高度な機能をいくつも搭載しています。
1. 歌詞と指示だけで最大5分の曲を生成
「アップテンポなJ-POP、女性ボーカルで」といった指示(プロンプト)と歌詞を入力するだけで、AIが最大5分の楽曲を生成します。日本語、英語、中国語、韓国語に対応しており、非常に流暢な歌声を実現します。
2. ボーカルと伴奏を自動で分離(ステム出力)
YuEが生成する音声ファイルは、「ボーカルのみ」と「伴奏(インスト)のみ」が自動で分かれています。これはDTM(デスクトップミュージック)を行う上で非常に重要です。
- ボーカルだけ音量を調整する
- 伴奏だけをBGMとして使う
- 自分でリミックスやマスタリングを行うといったプロレベルの編集が簡単に行えます。
3. 曲の展開を自由にコントロール
[verse]
(Aメロ)、[chorus]
(サビ)といったタグを歌詞に書き込むことで、楽曲の構成を細かく指示できます。これにより、単調な曲ではなく、展開にメリハリのある意図した通りの楽曲制作が可能です。
4. 好きな曲のスタイルを学習・模倣
「インコンテキスト学習(ICL)」という機能を使い、約30秒の参考曲を聴かせることで、その曲のボーカルスタイルや伴奏の雰囲気を真似させることができます。「このアーティストみたいな声で歌ってほしい」といった高度な要求にも応えてくれるのです。
【比較】YuE vs Suno - あなたに合うのはどっち?
結局のところ、多くの人が気になるのは「Sunoと比べてどうなの?」という点でしょう。それぞれの長所・短所を比較してみました。
項目 | YuE | Suno / Udio |
---|---|---|
音質 | 非常に高品質(Suno v3.5相当) | 最新版はさらに自然で高品質 |
コントロール性 | ◎ 圧勝(ステム出力、構成指示など) | △ プロンプトでの制御が中心 |
使いやすさ | △ 専門知識と環境構築が必要 | ◎ 非常に簡単(ブラウザ完結) |
生成速度 | △ 遅い(1曲数分〜数十分) | ◎ 速い(1曲数十秒〜数分) |
コスト | ◎ 無料(※高性能PCが必要) | △ 無料プランは制限あり(サブスク) |
商用利用 | ◎ 無料で可能 | △ 有料プランへの加入が必須 |
法的リスク | ◎ 透明性が高い | △ 訴訟リスクあり |
結論:誰のためのツールか?
- Suno/Udioがおすすめな人
- とにかく手軽に、素早く曲を作りたい
- PCの専門知識に自信がない
- アイデア出しや趣味で使いたい
- YuEがおすすめな人
- コストをかけずに商用利用したい
- ボーカルや伴奏を細かく編集・加工したい
- 著作権のリスクを避け、安心して作品を発表したい
- AIを「便利な家電」ではなく、カスタマイズできる**「強力なエンジン」**として使いたいクリエイターや開発者
YuEの始め方|高いハードルの乗り越え方
YuEの唯一にして最大の弱点が、要求されるPCスペックが非常に高いことです。
公式には、フルソングの生成にVRAM 80GB
以上、短い曲でもVRAM 24GB
(GeForce RTX 3090/4090など)のGPUが推奨されています。これは多くの人にとって大きな壁となるでしょう。

しかし、希望はあります。オープンソースであるYuEの弱点を、世界中の開発者コミュニティが助けてくれています。
コミュニティによる主な解決策
- 低スペックPC向け最適化版YuEGPなどのプロジェクトでは、少ないVRAM(6GB〜8GB程度)でも動作するようにモデルを軽量化しています。品質がわずかに落ちる可能性はありますが、多くの人にとって現実的な選択肢です。
- 簡単インストーラー&UIコマンド操作が不要なグラフィカルなツールも開発されています。WindowsユーザーならPinokioというワンクリックインストーラーが便利です。
- クラウドサービス / API自分のPCを使わず、fal.aiのような有料のクラウドAPIサービスを利用する方法もあります。手軽ですが、生成時間に応じてコストがかかります。
まとめ:YuEが切り開くAI音楽の未来
YuEは、単なる新しい音楽AIではありません。これまで一部の企業の独占状態だった高品質な音楽生成技術を、すべての人に解放するという大きな使命を帯びています。
高いハードルはありますが、それを乗り越えるためのコミュニティの活発な動きこそが、YuEの真の価値を示しています。
AIはアーティストの仕事を奪うのではなく、DAWやシンセサイザーのように、創造性を拡張するための**新しい「ツール」**になります。YuEは、そのオープンな思想によって、人間とAIが協力して音楽を創る未来への扉を大きく開いたのです。